「おままごと」のセックスを卒業する。――『実践イラスト版 スローセックス 完全マニュアル』レビュー

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【不快な寒さには対処するのに、なぜ「不感」は放置するのか?】

 暑ければ服を脱ぎ、寒ければ火を焚く。私たちは不快を取り除くために創意工夫をする生き物です。 しかし、こと「セックス」において「気持ちよくない」「心が満たされない」という重大な不快に直面したとき、なぜ多くの日本人は「悩むだけで何もしない」のでしょうか。
 日本初のセックススクールを立ち上げたアダム徳永氏は、かつて自ら実践していた行為を「おままごとでしかなかった」と振り返ります。本書は、そんな「男の怠慢」を打ち砕き、女性の潜在能力を呼び覚ますための、真の意味でのセックスの教科書です。


【ジャンクセックスから「豊かな食卓」へ】

 著者は現代のセックスを、ただ空腹を満たすだけの「ジャンクセックス」と切り捨てます。 一方、スローセックスが目指すのは、美味しいものをゆっくりと味わう「豊かな食卓」のような時間です。

  • 「オスの本能」を捨てる: 性欲を人間らしさではなく、愛を阻害する「本能」と定義し、そこから距離を置く。
  • 射精の放棄: 以前紹介したポリネシアンセックス同様、ここでも「出す」ことではなく「回す」ことが説かれます。
  • カイロスの時間へ: 秒速3cmのアダムタッチは、時計の針(クロノス)を忘れさせ、永遠のリズム(カイロス)へと二人を誘います。

【身体の声を聴く「秒速3cm」の精密な技術】

 本書が他のマニュアル本と一線を画すのは、その圧倒的なまでの具体性です。著者は、愛撫を「感覚の創意工夫」と定義し、誰でも再現できるよう数値化しています。

  • アダムタッチの極意: 肌から2cm離してエネルギーを感じさせ、各指の間隔は1cmを保つ。
  • 究極のリズム: 秒速3cm(3つ数えて10cm動かす程度)。

 この「じれったい」ほどのスローテンポこそが、相手の肌のセンサーを極限まで呼び覚まします。実際に意識してみると、これまでいかに自分が「作業」として触れていたかを痛感させられます。これはまさに、相手の身体の反応を「聴く」ための、最も誠実なコミュニケーションの形なのです。

【早漏は「克服できる」という希望】

 また、多くの男性が人知れず悩む「早漏」についても、本書は明確な解決策を提示しています。 そのアプローチは、根性論ではなく「呼吸法」と「ペニスの強化」という非常に具体的なもの。
 「イク気」を散らすためのマル秘呼吸法は、日常のトレーニングとして実践できるほどシンプルです。これまでの「催眠誘導」で学んだ意識のコントロール(ディソシーション:客観視)をここに応用すれば、より確実に「本能に流されない自分」を手に入れられるはず。 パートナーを満足させたいという願いは、こうした地道な「技術の習得」によって現実のものとなります。

【技術とは「愛を伝えるための言葉」である】

 「愛があれば技術なんていらない」というのは過信です。 どれほど相手を想っていても、言葉を知らなければ愛を語れないのと同じように、正しい知識と技術がなければ、身体で愛を伝えることはできません。
 私が本書を読んで最も腑に落ちたのは、「女性は興奮の前に必ずリラックスを経由する」という法則です。 楽しい会話が続くほど、心は開き、身体は官能を受け入れる準備ができる。これは催眠誘導でいうところの「ラポール形成」そのものです。
 また、本書に登場する「気」という概念。スピリチュアルで難解に聞こえるかもしれませんが、私はこれを「バイオラポール(身体を通じた深い共鳴)」のことだと解釈しました。相手を思いやり、呼吸を合わせ、肌のセンサーを研ぎ澄ます。その結果として生まれる一体感こそが「気」の正体なのではないでしょうか。

【ベッドの上だけがスローセックスではない】

 アダム氏は言います。「日常生活にセックスを溶け込ませること、それがスローセックスである」と。日々の会話、何気ない気配り、相手を大切に思う気持ち。 本書に書かれた詳細なテクニック(アダムタッチや呼吸法)は、その想いを相手の細胞に届けるための「翻訳機」です。
 パートナーとの関係を、単なる「手順」から「終わりのないアート」へと進化させたい。そんなすべての人に、何度も読み返してほしい一冊です。

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